芸術祭2021.11.23

「いちはらアート×ミックス2020+」ついに開幕!

コロナ禍を超えて開催されてきた芸術祭のバトンを受けて――

 11月19日(金)、「房総里山国際芸術祭 いちはらアート×ミックス2020+」がついに開幕しました。昨年3月20日の開催がコロナ禍で一年延期となり、さらに延期を重ね、満を持しての開催です。9月4日、蔓延防止策の中スタートした奥能登国際芸術祭、10月初、緊急事態宣言が全国的に解除され、スタートした北アルプス国際芸術祭と、いずれも感染者ゼロで手渡されてきた芸術祭のバトンが、市原に届いたのです。

 10月20日、開催が急遽決定されてから文字通り急ピッチで準備が進められて迎えた開会式は、小湊鉄道の五井機関区に停車したトロッコ列車を来賓席にして、ホームでは市原市消防局の音楽隊が「銀河鉄道999」を奏でる中、明るく爽やかに執り行われました。

 1年8か月の間、不安の中、時が止まったかのように待機していた17か国71組の作家による90におよぶ作品たちは魔法をとかれたように息を吹き返し、行く先々では地元のボランティアや菜の花サポーター、市原市のスタッフたちに加え、瀬戸内や奥能登からもサポーターが駆けつけ、訪れる人たちを迎え入れていました。

  • 11月19日 五井駅ホームで開幕式が行われました。photo by Nakamura Osamu

日本の縮図=市原での課題解決型芸術祭

「いちはらアート×ミックス」が始まったのは、2014年。北川フラムが総合ディレクターに迎えられ、「課題解決型芸術祭」と銘打ってコンセプトがつくられました。
 市原市は千葉県のほぼ中央に位置し、最も広い面積を有する人口27万人の自治体です。北部は日本有数の工業地帯、首都圏のベッドタウン。南部は田畑が広がる里山地域ですが、市の面積の半分を占めるにも関わらず人口は10分の1、過疎化により小学校の統廃合が進み、古い商店街は弱体化。まさに日本の縮図とも言える東京近郊都市の典型である市原市において、特に南部地域を活性化することを第一の目的に、地域の人々に親しまれた小湊鉄道の魅力を際立たせ、廃校となった小中学校をコミュニティの核として蘇らせることを中心に、芸術祭は構想されました。アートに芝居、パフォーマンス、スポーツ、食、コミュニティ、さまざまな要素を掛け合わせることで地域を元気にし、首都圏のオアシスを目指して、「晴れたら市原、行こう」をキャッチフレーズとしてスタートしたのです。
 第3回となる今回は、第1回で提示したコンセプトをさらに強化すべく、小湊鉄道を軸に17の駅で「駅舎プロジェクト」が展開され、さらに駅から8つの地区(牛久、高滝、平三、里見、月崎・田淵、月出、白鳥、養老渓谷)のアートサイトへと訪れた人を誘います。一面の菜の花畑から、紅葉が美しい晩秋の里山へ季節を変えて、芸術祭が始まりました。

里山を走る銀河鉄道の旅:駅舎プロジェクト

 出発は小湊鉄道が始まる五井駅。小湊鉄道が開業した1917年は、「鉄道への夢」が科学・機械文明への夢としてありえた幸福な時代でした。五井機関区はまさにその「鉄道への夢」が実感できる場所。開業時から使用された3両の蒸気機関車が保存され、今も現役の機関庫と鍛冶小屋は国の有形文化財に登録されています。そこを舞台にアレクサンドル・ポノマリョフは「人類の進化と機械の発展」をテーマとした2つの作品を制作、ザンナ・カダイロバは市原から8000キロ離れたウクライナへと続く夜汽車の旅を演出します。普段は立ち入ることのできない車両基地は鉄道ファンのみならず必見。
 五井駅ホームではアデル・アブデスメッドの宙づりのピアノが電車の出発にあわせて映画『カサブランカ』のテーマ曲「アズ・タイム・ゴーズ・バイ」を奏でます。レオニート・チシコフは五井駅をはじめ7つの駅で「7つの月を探す旅」を展開、小湊鉄道は宇宙へと続く銀河鉄道となるのです。
 上総村上駅のホームのベンチに座る宇宙飛行士・村上氏は、昨年春以来、何度か登場。すっかり人気者となりました。夕暮れ時、最終駅の養老渓谷駅では7つの月が光を発し、その近くの菜の花畑ではターニャ・バダニナの「空への階段」が白く輝きます。上総川間駅ではジョアン・カポーテのスーツケースの壁、上総鶴舞駅では成田久が空色のコスチュームをインスタレーションし、上総久保駅では西野達がホテルをつくってしまいました。藤本壮介は飯給駅の世界一大きなトイレに加えて、牛久駅と上総鶴舞駅にトイレを新設、月崎駅では2014年から続く木村崇人「森ラジオ ステーション」で森の音を聴き、里見駅にはソカリ・ドグラス・カンプの手作りの貨車が停車しています。

  • いちはらアート×ミックス2020+参加作品 レオニート・チシコフ 7つの月を探す旅
    レオニート・チシコフ《第二の駅 村上氏の最後の飛行 あるいは月行きの列車を待ちながら》

廃校をコミュニティの拠点となるアートサイトに

「アート×ミックス2020+」では、4つの地区の旧小学校・保育所がアート作品の舞台となっています。旧平三小学校では11人のアーティストが子どもの頃の夢や妄想を彷彿させるような作品やユニークな講座を展開しています。

  • 栗真由美《ビルズクラウド》

 旧里見小学校では、コロナ禍の中、アーティストたちが何を考え、何をしているか、彼らの息吹を伝えようと半年にわたって行われたインスタグラムプロジェクト「Artists’ Breath」に参加した194人のアーティストが投稿した各2分間の動画を一堂に見ることができます。ここでは里山連合のボランティアの方たちによる特製カレーセットをいただくことができ、Eat & Art Taroによる和菓子のワークショップが祝休日に開催されています。

  • Artists' Breath Playback(高橋啓介)

 2014年の「アート×ミックス」で旧月出小学校を芸術の発信拠点として再生し、岩間賢のディレクションのもと恒常的に活動を続けてきた「月出工舎」では、壁画やインスタレーションが展開され、隣接する森や空き家を使った「月出の森構想」もスタートしました。

  • 岡博美《その内に持つ色》

 旧白鳥保育所では、市原が今から1000年前、『更級日記』の作者・菅原孝標女が少女時代を過ごした地であることにちなみ、7組の女性アーティストが場所の記憶に触発されたインスタレーションやラジオ局を展開しています。

  • 大杉祥子《白鳥の湖》

古くから続く商店街の活性化

 かつて宿場町として栄えた牛久商店街では、4人のアーティストがレトロな雰囲気を活かした作品を制作しています。空き店舗を、マー・リャンは昭和の紙芝居屋に想を得た写真館に、ガラス職人/アーティスト・柳健太郎は自身の工房に、「アート×ミックス2020+」のアートディレクター豊福亮は世界の名画の模写で埋め尽くされた名画座に変え、中崎透は今も営業を続ける衣料品店の上階を、店や街の物語をタイムトラベルするような空間に設えました。

  • マー・リャン《移動写真館》

 月崎の里では、かつての有力者の館の不思議なコレクションを庭に展覧したアイシャ・エルクメンのユニークな作品を観ることができ、山口の里では、深澤孝史が日本最大級の木造地蔵が安置される里の謎を解き明かし、音信山の古道を復興する試みを行っています。

  • アイシャ・エルクメン《Inventory》

養老川から見る地域の成り立ち

 今回の芸術祭は、コロナ禍だけでなく、2019年秋、市原を襲った2度の台風と豪雨による被害を乗り越えての開催となりました。被害を甚大にした原因のひとつは房総半島を南北に大きく蛇行し、東京湾に注ぐ養老川の存在です。磯辺行久は、この国のエコロジカル・プランニングのパイオニアであり、土地の環境資源目録をつくり、人と土地との関係を表現してきたアーティストですが、今回は、チバニアン(地磁気逆転地層)で注目が集まる田淵地区で、6000年前の養老川の本流の川筋を視覚化し、さらに熱気球から川の流れを俯瞰するプロジェクトを行っています。

 そして期せずして、市原湖畔美術館では、「森と湖」をテーマとした戸谷成雄展に関連して、養老川の度重なる洪水を防ぎ、北部の工業化と人口増に対応した水源確保のために建設されたダムの底に沈んだ村の記憶をたどる展示を見ることができます。

走りながら、共に芸術祭をつくる
 開幕決定から1か月の準備を経て、わずか36日間の開催となった「いちはらアート×ミックス2020+」。まさに走りながら、意見やアドバイスを受け、日々改善を重ねながらの芸術祭です。でも、わずかな広報期間であったにもかかわらず、行く先々で切符を模したパスポートを持った人たちに絶え間なく出会うことができるのは、私たちにとって大きな励ましです。

 素晴らしい作品を制作してくれたアーティスト、開幕を準備してくれた市原市のスタッフ、住民の方々、ボランティア、開幕を待ってくれていた人たちに心から感謝します。12月26日(日)まで続く里山アート×ミックスの旅。ひとりでも多くの方が同乗されんことを!

房総里山芸術祭 いちはらアート×ミックス2020+
会期:2021年11月19日(金)~12月26日(日)
月・火曜日:休場 (11/23(火・祝)を除く)
作品鑑賞パスポート 一般:3,000円 大高生:1,500円 小中学生:500円公式サイト:https://ichihara-artmix.jp/

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