TOPIC展覧会2021.02.02

やがてミロとなるひとりの子どものために――
豊かなアート体験の場をつくる

 コロナ禍のなか、アートフロントギャラリーが指定管理者をつとめる市原湖畔美術館では、第8回を迎える「子ども絵画展」の準備が進められています。市原市内の全小学校、幼稚園、保育園が参加、今年は6025点の応募があり、うち選ばれた306点が展示されます。この展覧会の最大の特徴は、第一線のアーティストやデザイナーが会場構成に当たることです。これまで有山宙、原游+原倫太郎、KOSUGE1-16、長谷川仁、鬼頭健吾さんらが子どもたちの絵とコラボレーションしてきました。美術館の特別な空間に子どもたちの作品を展示する――そこには私たちの子どもたちへの敬意と希望が込められています。今年は、資生堂のクリエイティブディレクターであり、アーティストとしても多彩な活動を展開する成田久さんが北川フラム館長と審査にあたり、「わたしの夢と冒険」をテーマに子どもたちの想像力を刺激する空間をつくりあげます。星々を散りばめ、芝生の上に成田さんお手製の色とりどりのクッションが配置されたお絵描きピクニック広場では、成田さんオリジナルの塗り絵が楽しめる趣向です。必見は、今日までご自身の脳内妄想アイデアを描きとめてきたジャポニカ学習帳(自由帳)を一挙公開したCUEズ・ルーム。随所に子どもたちへのエールがあふれています。成田さんは「房総里山芸術祭 いちはらアート×ミックス2020+」にも参加。小湊鉄道上総鶴舞駅で空色のコスチュームをインスタレーションします。

 

「いちはらアート×ミックス2020+」のための成田久作品(一部)
Model:Yuka(friday) Photographer:蔦村吉祥丸 Hair and Makeup:岡田いずみ Stylist:遠藤リカ

アートフロントギャラリーが「子どもとアート」をテーマに取り組んだ最初のプロジェクトは1980年から2年をかけて全国80校を巡回した「子どものための版画展」です。

恩地孝四郎、長谷川潔から、関根伸夫、野田哲也まで、日本の近代美術・現代美術を代表する40人の作家による版画作品40点を小・中・高校の教室や廊下、体育館など子どもたちの日常の場に展示し、会場校から次の会場校へ先生方がリレー方式で運搬しました。いろいろな技法による版画表現の多様さ、たくさん刷れるという版画の複数性を活かしたこの移動展覧会は、各地の学校、教育委員会や文化団体との協働によって実現、それぞれの地で大きな反響を呼びました。「子どものための版画展」は現在も作品をアップデートし、随時、貸し出しを行っています。

 この移動展覧会のアイデアをさらにダイナミックに展開させたのが「アパルトヘイト否!国際美術展」(1988-1990)でした。南アフリカの人種隔離政策に反対するラウシェンバーグ、リキテンシュタイン、ボルタンスキーら世界の第一線のアーティスト81人154点の作品を運搬するために美術収蔵庫つきの大型トラック「ゆりあ・ぺむぺる号」を制作、「ヤンバルクイナの森に住むひとりの少年に絵を届けよう」という呼びかけのもと、沖縄を皮切りに500日間で全国194か所を巡回し、38万人が公民館や学校の体育館から美術館まで、様々な会場に足を運びました。パリでの第1回展以来、12か国の国立美術館等で開催されてきた大展覧会を、草の根の実行委員会を各地に組織することで実現する――その原動力となったのは、自分の住む地域の子どもたちに世界のアーティストのナマの作品を見せたい、という大人たちの熱意でした。あれから30年。ゆりあ・ぺむぺる号の赤い風船を見た子どもたちは今、どうしているのでしょう。

全国を巡回した「ゆりあ・ぺむぺる号」
「アバルトヘイト否!国際美術展」展示会場

 都市の再開発に大規模なパブリックアートを導入した日本最初のプロジェクト「ファーレ立川」。米軍から返還された立川基地跡地の再開発で立川駅北口に1994年に誕生した11棟のインテリジェントビルからなる街区は、四半世紀を経て、グリーンスプリングスなどまわりの再開発も整い、その一帯は賑わいにあふれています。世界36か国92人のアーティストの作品が街区のそこここに埋め込まれた「アートの妖精が棲む森」。それを構想した時のことを北川フラムは次のように書いています。

スペインのアーティスト、ジョアン・ミロは語っている。「私の作品のすべては、ガウディに負っている。幼い頃遊んだグエル公園での記憶が、私の美術の源なのだ」。一人の子どもにとって、記憶に残る街とは、どんな街だろうか。利便性が優先する均質で冷たい現代の街で、人間と感応でき、親しみのもてる媒介物にアートがなり得たら!たくさんの人たちや、組織や、法律や、お金が関わりながら進んでいくまちづくりのなかで、道筋の見えなくなったとき、いつも思い返すのは、「やがてミロとなる一人の子どものために!」ということだった。 「ファーレ立川」に参加したニキ・ド・サンファルの略歴のなかに、「バルセロナに行ってグエル公園にたたずんだとき、私は美術をやろうと思った」と書かれてあった。いまはその、ニキのつくったカラフルな双頭のヘビのベンチ「会話」に、子どもたちは遊び、大人たちも喜んで座っている。空間の記憶は、人を豊かにし、時代と場所を超えて伝わっていくのだと思う。

 新しい街をつくる時に開発者が思うのは、そこで育つ子どもたちのことでしょう。私たちはファーレ立川以降も、パブリックアートやワークショップ、イベントなど、さまざまな形でアートにより子どもたちの体験を豊かにする取り組みに関わっています。

「ViNA GARDENS」「花のロンド」(小田急電鉄 海老名駅)高橋匡太+to R mansion 撮影:村上美都

 

 2000年に始まった「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」。今夏、第8回を迎える3年大祭は、すべてが子どもたちに捧げられていると言っても過言ではないでしょう。アートを道しるべに里山をめぐり、地域の人や生活と出会い、滋味豊かな食を味わい、世界のアーティストの作品を通して多様な世界観を知る。「鉢&田島征三 絵本と木の実の美術館」をはじめ、子どもたちの心に響く作品やイベントは枚挙に暇がありません。2006年にスタートした「越後妻有こどもサマーキャンプ」は越後妻有でのそうした体験を凝縮したプログラムでした。廃校をリノベーションした三省ハウスに宿泊し、地元のお母さん方による食を味わいながら、里山科学館キョロロで自然探検をし、アーティストによるワークショップ、アートツアーを体験する。サマーキャンプを“卒業”した子どもたちは前回の芸術祭では「こへび隊」にも参加しました。2011年、東日本大震災の年からは「越後妻有の林間学校」にヴァージョンアップし、被災地の多くの子どもたちを受け入れました。現在、「大地の芸術祭の里」は、年間を通じて修学旅行も含め、子どもたちの学びと体験の場となっています。

 

 今年は、大地の芸術祭をはじめ、「房総里山芸術祭 いちはらアート×ミックス」、「北アルプス国際芸術祭」、「奥能登国際芸術祭」、4つの芸術祭が予定されています。いろいろなことがオンラインに切り替えられつつある今だからこそ、子どもたちに自然のなかでナマのアートに触れ、自由に感性を解き放ってほしいと願います。

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