TOPIC2023.11.01
11月3日からアートフロントギャラリーで7年ぶりとなる個展を開催する、大巻伸嗣さんにインタビューを行いました。六本木の国立新美術館ではダイナミックなインスタレーションを展開する個展「Interface of Being 真空のゆらぎ」が開催中であり、アートフロントギャラリーでの個展はその作品に関連する新作を発表します。
AFG : 今回の個展「moment」(11/3-26 アートフロントギャラリー)について教えてください。
大巻:今回の展示では国立新美術館(11/1-12/25)の展覧会に合わせて、フォトグラムの新作を制作しました。フォトグラムは光と影が入れ替わり、それをダイレクトに写す——影を光にする——生々しい写真の技法だと思っています。今回美術館に展示しているインスタレーション《Gravity and Grace》の光と影をそのまま焼き付けたので、光の粒子と影の粒子が交わる気配みたいなものをアートフロントギャラリーの展示でも見せられたらと思います。そこには僕ら人間の目では捉えられていない光の現象、影の現象が映し出されている。光と影がゆらぐ、混ざるところ、出あうところ、その瞬間を感じてもらえたらいいですね。
AFG:今回は初の試みとして人体を入れたフォトグラムも制作されましたね。
大巻:日本で展示するのは初めてになりますが、フォトグラム作品自体は2017年に台湾で制作・展示したのが最初になります。実は、その前からずっとフォトグラムはやりたいと思っていたんです。光のエネルギーを浴びてそこに焼き付いた瞬間みたいなものを作品にしたいなと。流れる時間の中の一瞬が記憶みたいにそこに残っていく。「不在の痕跡」のような、大きな時間の中にある小さな痕跡みたいな一瞬を焼き付ける作品に出来たらと思って制作しました。
今回、人体を取り入れたのは、人が介在してくると、そこに関わってくる時間と記憶がより鮮明に残るのではないかと思って実験的に挑戦してみました。それが美術館に展示している全身を焼き付けた作品になっています。浮遊感というか、とても不思議なイメージが生まれてきて、美術館の展覧会カタログに学芸員の長屋光枝さんが書いてくれた「イメージの場所」という言葉にも繋がるものがあると感じています。
AFG:美術館に展示しているインスタレーション作品をフォトグラムに焼き付けるという事で、設営期間中の3日間、深夜の美術館を暗室にして制作が行われましたね。私たちギャラリースタッフもその制作に立ち会わせてもらいましたが、作品の周りを歩き回り、空間の中に見えない壁をつくってイメージを探す創作プロセス自体がとても身体的で興味深く感じられました。その行為がリアルに作品にも投影されているのではないでしょうか。
大巻:そうですね、探しているときに平面的に考えるのではなくて、すごく奥行というか、光の粒子の奥行がそこに存在していて、そういったものが捉えられたらいいなと思って探していました。
存在そのものが固定されるのではなく、流動的に動いている。そういう止まっていない流動している瞬間がそのイメージの中にぐっと生まれてくる。その形が出てくるといいなと思って影と光のイメージや場所を選んだし、人を入れることで、もう一つのレイヤーが生まれて、自分たちが生きている振動と、光の波動が合わさって、侵されたり、光によって奪われたり、影によって奪われたりする作品が制作できました。壺と空間と、その間に人間が介在することでそれが溶けていくような、光と影が物質として溶けていくようなイメージが生まれていくところがすごく面白いと思って、今回それが試せてよかったと思います。ゆらぎが起こっている現象、狭間の現象、みたいなものがビジュアル化できそうと感じられたので。
AFG:大きな花や人類の進化の様子、鳥などが象徴的にみえますが、壺型のインスタレーション《Gravity and Grace》モチーフにはどのような意味が込められているのでしょうか?
大巻:大きな時間、大きな存在というものを意識していて、人類の歴史も壺の中に入っています。それがメルトダウンするとパンドラの壺のように吐き出されたり、吸い込まれてしまったりします。世界地図や地球そのもの、人類、生命がもっているその時間軸の中で右往左往させられている、動いていくエネルギーとかそういったものを壺の中に込めています。長い人類史の中で消滅してしまったものも入れています。私たちがそこで進化しているのか、退化しているのか・・・葉っぱと葉っぱが重なって見えなくなったり、いろいろな文化がせめぎあって消えたり、違う文化になって新しく生まれていたり、世界地図のように見るとエネルギーを作っている場所も示されていたり、いろいろなイメージが本当は隠されているのです。ただアイコンのように見せているだけであって、それを読み解くというより、その中で自分たちが右往左往させられているとか、生きているという事。自分たちも流されていくのか、どう立とうとするのかという、問いを投げかけています。
今回の美術館の空間の中には関口涼子さんの詩を入れさせてもらいました。詩を読むことによって問いが生まれる。その言葉は、光によって見えたり、影に沈んで見えなかったり・・・光として生まれてくる言葉があって、影にまた沈んでいく言葉がある。そういう空間インスタレーションになっています。ただ光が上下しているだけではなく、空間そのものが振幅を繰り返しているのです。
AFG:国立新美術館での展示には、数多くのドローイングも展示されています。その中には、越後妻有の「大地の芸術祭」で発表されている作品《影向の家》のドローイングもありましたね。
大巻:ドローイングは、どの作品をつくる時も描いています。《影向の家》のドローイングは、気配みたいなもの探ろうとして描いたものです。芸術祭への参加が決まって、展示会場となる候補の空き家が見つかったばかりの時に写真を撮らせてもらい、壁を剥がしたり、床を剥がすと古い新聞がいっぱい出てきたり——そんな時間を探している時に、立ち上がっていくような煙のイメージを感じていました。それをドローイングにしながら残響のような感覚をかき集め、探し、自分に問う作業でした。《影向の家》は冬には雪が高く積もり踏み入る事の出来ない場所です。その冬に失った光が天に昇るというストーリーで作品を制作しています。
AFG:来年の「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024」では、《影向の家》の展示が再開される予定です。美術館にてドローイングを見て、越後妻有へ足を運んでいただけるとより展示がお楽しみいただけると思います。
アートフロントギャラリーでの個展、および国立新美術館での個展、そして2024年の大地の芸術祭と、常に更新し続け、新たなる試みにチャレンジしていく大巻の各地での活躍をぜひ展示会場にてご体感ください。
「moment」
2023 年11月3日(金・祝)- 11月26日(日)
アートフロントギャラリー(東京・代官山)
「Interface of Being 真空のゆらぎ」
2023年11月 1日(水) ~ 2023年12月25日(月)
国立新美術館(東京・六本木)
「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024」
2024年7月13日(土)~11月10日(日)
※《影向の家》の開館時間は公式ウェブサイトでご確認ください。