コロナ禍の中で
9月4日、奥能登国際芸術祭2020+が開幕しました。副知事以下、7人の国会議員とその代理が出席し、少数ながらも意味深いオープニングは15分にまとめられ、コロナ禍のなか、万全の注意と準備で進められてきた芸術祭のスタートです。
《スズ・シアター・ミュージアム「光の方舟」》と多目的コミュニティスペースである《さいはてのキャバレー》のほか、屋外作品を中心に20点が見られます。その他屋内を中心とした展示作品は、石川県の蔓延防止措置を受けて、珠洲市が独自に決めたガイドラインを超えているため、現時点では公開していません。個々の作品の状況、人手を考えてのきめ細かい検討の末のスタートでしたが、根底はワクチン接種の度合いと、各地区の住民の気持ち、医療体制の整備と、宿泊・飲食・旅行業関係者の理解と抑制、そうしたことの総合的な判断によるものです。一方で、住民や関係者、アーティストの芸術祭への静かな期待もひしひしと感じています。
最終的な決定は実行委員会によるものですが、現場の責任者である総合ディレクターである私の責任は重い。同じ能登は七尾出身の桃山時代の逸格の画家、長谷川等伯についての安部龍太郎の小説『等伯』によれば、かの《松林図屏風》は等伯の首がかかったトライアルだったそうですが、芸術祭が始まった今、私にとっても毎日が身の引き締まる日々です。
珠洲全体が「生きたミュージアム」
さて、作品は爽やか、明快、力作揃いです。全体として皆さんの期待に添えるものになっていると思います。里山と里海が接する日本海に突き出た、古来、海を通して大陸を含めた交流の拠点でありながら、近代の地政学的な条件で過疎になった地域がもつ多くの資源に、美術を通して目を向けようと始めたこのプロジェクトが、形になり始めていることを実感します。
特に、全家屋の1パーセントを超える家々の市民総出の「大蔵ざらい」から出発し、博物学的調査・研究とともに進められた《スズ・シアター・ミュージアム「光の方舟」》の、地域の民具や生活備品が自ら演者となって歌い踊る空間とショーは圧巻です。私たちがかえりみることがなくなった<来し方>と、想像することがなくなった<行く末>を体験するミュージアムになったと思います。
空家や休眠施設を活用した作品は、珠洲という土地・生活全体の生きた博物館の別館を構成しているかのようです。
機会を得たら、コロナ対策を万全にしていらしてください。地元もそれに応えてくれるでしょう。
2021年9月10日 北川フラム
スズ・シアター・ミュージアム「光の方舟」
ディレクター:北川フラム
キュレーション・演出:南條嘉毅
民俗文化アドバイザー:川村清志(国立歴史民俗博物館)
建築改修・空間設計:山岸綾(サイクル・アーキテクツ)
音楽:阿部海太郎
特殊照明:鈴木泰人(OBI)
造形・演出サポート:カミイケタクヤ
民俗資料保存・活用アドバイザー:川邊咲子(国立歴史民俗博物館)
ロゴマーク・グッズデザイン:KIGI
奥能登国際芸術祭2020+
会期:2021年9月4日(土)ー11月5日(金)*会期を延長しました。
時間:9:30-17:00
休館:祝日除く木曜日(一部作品を除く)
会場:石川県珠洲市全域
参加アーティスト:16の国と地域から53組(うち新作47組)
主催:奥能登国際芸術祭実行委員会
石川県内のまん延防止等重点措置適用期間については、作品を限定し公開しています。作品の公開状況は公式サイトでご確認ください。