TOPIC展覧会2020.06.24

市原湖畔美術館「雲巻雲舒 現代中国美術展・紙」再開(7月26日まで)――キュレーターインタビュー

紙を通じて、人と自然の関係を問い直す

新型コロナウィルスの影響で4月から臨時休館となった市原湖畔美術館「雲巻雲舒(うんかんうんじょ) 現代中国美術展・紙」が5月28日より感染拡大防止策を講じた上で再開されました。来年3月に延期となった「房総里山芸術祭 いちはらアート×ミックス」のメインプログラムのひとつとして企画された本展は、参加アーティスト、ゲストキュレータ―が中国から来日できないまま遠隔指示で準備が進められました。彼らはどのような気持ちで作品を送り出し、何を伝えたいと思ったのか。ゲストキュレーターの鄭妍(ツェン・イェン)氏にオンラインでお話を伺いました。

――中国の現代のアーティスト7名を集めたこのグループ展のテーマである「紙」は、火薬、羅針盤、印刷と並ぶ中国四大発明のひとつです。7世紀には日本にも伝わり、美術の重要な「素材」のひとつでもあります。この展覧会では、紙のどのような側面に注目しているのでしょうか。

鄭妍: 紙の発明は漢字、書道、絵画、情報伝達、メディアの発展に大きな貢献をしており、日中両国に共通した長く深い伝統のあるモノのひとつです。ただ、この展覧会では、紙そのものの歴史や理解ではなく、「紙」という極めて日常的なモノのもつ精神的な面に注目したいと思ったのです。また、今回は房総里山芸術祭の一環でもあったため、「里山」や「自然」に視点が向かうようなテーマを掲げたいと思いました。紙の原材料は自然から由来しており、紙は人間が自然をメディアに転換したものとも言え、人間と自然との関係性を示すテーマであると考えました。

  • 市原湖畔美術館「雲巻雲舒―現代中国美術展・紙」展示作品
    林延(リン・イェン)《天璣Ⅲー問天》 林は、紙は自然を思い起こさせるものと考え、一貫して「宣紙」のもつ白さ、力を主題に作品制作を続ける。

――7人のアーティストは、それぞれの哲学、方法で紙に向き合い、紙の持つ意味を伝えています。

鄭妍: 各作家の作品は、紙を素材にしたり、メディアにしたり、紙への向き合い方はそれぞれですが、作品そのものが作家自身の人生やモノに対する態度を示しています。紙を広げたり、丸めたりする行為とは、そのまま作家が思考と創作の試行錯誤を重ねるさまにも例えられるでしょう。この展覧会だけで現代の中国のアーティストのすべてを紹介することはもちろんできませんが、彼らが持っている素材や創作の背後にある方法や美学的な思考の一側面を紹介できたと思います。

――タイトル「雲巻雲舒」について教えてください。

鄭妍:『雲巻雲舒(うんかんうんじょ)』は、去年、市原湖畔美術館を視察し、北京に戻ってきた際に、突然思いつきました。市原湖畔美術館は、房総の里山の自然に囲まれた場所にあり、静かで、とても詩的な印象を覚えました。都市の中では、新しいものが常に生まれていて、あらゆるものの速度が速く、ゆっくり座って私たちの生きる環境を振り返って考える機会と時間がありません。湖畔美術館の環境はそうした時間を与えてくれる場所だと思いました。<雲巻雲舒=なすがままに離散集合を繰り返す雲の様相を、過ぎ去る月日で人生や物事の境遇に重ねること>という意味を、紙の特性に近づけて、タイトルにしたのです。

  • 市原湖畔美術館「雲巻雲舒―現代中国美術展・紙」展示作品
    蔡国強(ツァイ・グォチャン)《私はE.T.天紙と会うためのプロジェクト》 紙と火薬という中国古来の発明品を素材にしながらも、蔡は「易経(変化)」を重視し、新しい可能性を見つけるために、宇宙人との遭遇を試みる。

――「ゆっくり座って、ゆっくり考えなおすこと」を促すこの展覧会は、期せずして、世界中が共通の問題を抱え、これまでの日常が停止され、新たな価値観への変容を求められる時期に開催されることになりましたね。

鄭妍: この展覧会の根底には、紙を通じて、人と自然環境との関係、人と宇宙の関係を問題提起することにあります。アーティストそれぞれの視点を提示して、見る人にそれを問うているのです。文化・芸術を実践することは、どんな状況でも課題が多く大変なことです。ただ、今の時期こそ、芸術は人を精神的に強くするものであることを改めて感じていますし、その需要があると思います。本来ならば、私も市原を訪問し、シンポジウムなどを通して日本の観客の皆さんと対話をしたかったのですが、今はあきらめなければなりません。この展覧会を通じて、みなさんの多様な思考と議論とを呼び起こすことができれば嬉しいです。

湖を臨み、広く大きな空を全身で感じられる市原湖畔美術館で、紙と雲のもつ、爽やかな白さと都会の喧騒から逃れられる時間を、ぜひ体験してください。

市原湖畔美術館「雲巻雲舒―現代中国美術展・紙」ゲストキュレーター鄭妍

鄭妍(ツェン・イェン)イギリスのハフハンプトン芸術学院で学び、現在は万営芸術空間のアートディレクターを務める。今日美術館(北京)や光州ビエンナーレなど数多くの美術館やプロジェクトなどでキュレーターを務めたほか、グッゲンハイム美術館(米国)やテート(英国)などで展覧会コーディネートに携わる。2013年、国際交流基金が主催する「アジアキュレーター交流プログラム」に参加。

市原湖畔美術館「雲巻雲舒 現代中国美術展・紙」
参加作家|蔡国強、李洪波、林延、劉建華、王郁洋、鄔建安、伍偉
開催中ー7月26日まで(月休)
時間|平日10時~17時、土曜・休前日9時半~19時、日曜・休日9時半~18時
料金|一般1,000円、大高生・65歳以上800円、中学生以下無料
主催|市原湖畔美術館(指定管理者:アートフロントギャラリー
後援|中華人民共和国駐日本国大使館、中国人民対外友好協会
協力|瀚和文化HUBART、いちはらアートxミックス実行委員会


その他詳しくは美術館公式サイトをご覧ください

写真(人物を除く) 撮影:長塚秀人

原広司が語る「僕はなぜアーティストと仕事をするのか」ーー田中信太郎展によせて

アートフロントギャラリーは、美術を開発事業、生活空間のなかに活かすために、多くのアーティストと協働してきました。美術館や…

TOPIC展覧会

2020.07.27

インスタグラムプロジェクト”Artists’ Breath”がスタートします

 北川フラムが総合ディレクターを務める5つの芸術祭に国内外から参加するアーティストの現在進行形の息吹を紹介するインスタグ…

TOPIC芸術祭北川フラム

2020.06.15

「いちはらアート×ミックス」トークシリーズ「コロナの状況下においてアーティストが持つ希望」ロシア人参加アーティストは語る

今、世界のアーティストたちはどのように感じ、何を考え、何をしようとしているのか。来年3月に延期となった「いちはらアート×…

芸術祭北川フラム

2020.05.25

アデル・アブデスメッド個展 「Play it Again」5月29日より再開。6月7日まで会期を延長します。

「アデル・アブデスメッド展:Play it Again」ギャラリーでの展示の様子を作品解説とあわせてオンラインで公開して…

展覧会

2020.05.25

台湾のWebマガジン「500times/500輯」にインタビューが掲載されました

北川フラム 「普遍的価値が変化する時、アートの役割は世の中によって問われることになる。」 記者:胡士恩 世界的に著名なア…

北川フラム

2020.05.25

© 2020 ART FRONT GALLERY all rights reserved

Privacy-Policy