2013年夏、「市原湖畔美術館」が市原市制50周年を機に「市原市水と彫刻の丘」のリニューアルにより誕生してから10周年。それを記念した展覧会「湖の秘密-川は湖になった」が開幕しました(9月24日まで)。そのレポートをお届けします。
会場では10周年を記念した特別資料展示を行うとともに、美術館のホームページに特設サイトを設け、これまでお世話になったアーティストの方々からのメッセージを公開しています。
現代の美術、建築、デザイン界のスターたちの個展、市原ぞうの国のゾウによる出張パフォーマンス、ピクニックやキャンプをテーマとした展覧会やワークショップ、美術館がストリートと化したり、ラップバトルを繰り広げた展覧会、民俗学者・宮本常一に学んだサイトスペシフィック・アート展、アボリジニやロシア、中国の現代アート展、メキシコと千葉、日本のつながりをアートによってひもといた展覧会などなど、思えばこの10年、市原湖畔美術館は従来の美術館の枠におさまらない多様な活動を展開してまいりました。
これからも「里山の地に足でしっかり立ち、眼は広く世界を眺める」を志として、活動していく所存です。どうぞよろしくお願いいたします。
7/29(土) 無料シャトルバスを運行します。
当日は13時よりダムカード発案者・三橋さゆりさんと出展アーティスト・椋本真理子さんによる「ダム×アート対談」も開催します。
7月15日、「湖の秘密-川は湖になった」が市原湖畔美術館でオープンしました(9月24日まで)。
市原湖畔美術館が佇む高滝湖やその周辺には、豊かな水や動植物が存在しています。四季折々美しい景色を見せる高滝湖、そして養老川をテーマに、本展ではアーティスト8名がそれぞれ地域の「秘密」を紐解いていきます。
館長の北川フラムはオープニングセレモニーで、美術界では社会や環境、政治に対して問題意識の高まりから、人間と自然がどのように良い関係を築いていくか多くのアーティストが考えてきたことでもあると述べ、本展覧会についても、「8人のアーティストが全然違う角度からここ(高滝湖やその周辺)を取り上げてきたという意味で非常に面白い展覧会である。」と評しました。まさにその言葉に集約されるような作品の数々が、当館内外にちりばめられています。
会場に入るとすぐに目に入るのは、浮遊するペットボトルやプラスチックでできた工場。岩崎貴宏によるインスタレーション《知波乃奴乃(ちばののの)》(2023)は、養老川を逆流するように市原の風景を様々な素材で構築しています。天井から吊るされ子どもの目線の高さほどに浮かんでいる作品は、繊細で儚くも市原という土地が育んできた豊かな資源が人々の生活を支えていることを想像させます。
岩崎の作品と対峙するように展示されている大岩オスカールの壁画《Yoro River 1》《Yoro River 2》(2023)は、美しくも迫力のある作品で、油性ペンと木炭で養老川が描かれています。かつて「暴れ川」と称された養老川と空想上の生物が入り混じっている様子が、現実と空想を行き来する想像力を掻き立てます。
仕切られた小さな展示室には、フリークライマーでもある菊地良太の写真が壁一面に展示されています。菊地は、当館や高滝湖、その周辺のベンチや橋などあるありとあらゆるものに登りその姿を写真に収めています。こんなところに人間が登れるのか、という驚きと今まで自分とは何の関係もなかった人工物に対して何かしらの関わりを持てる瞬間を体験します。
菊地の次に続くのが、当美術館がある地域で長年写真を撮り続けている加藤清市の作品です。高滝ダムの建設に伴い沈んでしまった村の当時の様子を知ることができる貴重な写真が並んでいます。ダム建設は私たちに与えたものもありましたが、同時にその背景には奪われた生活があったことを思い起こさせます。
加藤の作品の奥には、一つの展示室に尾崎悟と松隈健太朗の作品が寄り添い合うかのように展示されています。尾崎の《涙》《手紙1》《手紙2》は、今年2月に逝去した松隈に捧げられた作品です。アルミやステンレスを使った作品は素材の硬度を感じさせない表現で、私たちが日常で見ている素材の新しい一面を感じることができます。尾崎の作品に囲まれた空間には、松隈によって木に命を吹き込まれた不思議な生き物たちがひっそりと息をしながら私たちを迎え入れます。そのまわりには、養老川やその支流で拾い集めた石、流木、動物の骨が散らされています。
地下に続く階段を降りるとそこは湖の底に見立てられた南条嘉毅のインスタレーション《38m-ネトの湖-》(2023)があり、かつて存在した高滝村の面影を想像させます。展示室の床には、高滝湖から掬い上げた5㌧の砂がこんもりと盛られ、古い民具やその影が光と音に合わせて揺れ動く様子は、どこか人の気配を感じさせます。
南条の展示室を出ると、椋本真理子の彫刻が姿を見せます。鮮やかでミニマムな様相の作品は、当館屋上でも見ることができ、ダムを中心に花壇などの彫刻がコンクリートの上で瑞々しく色を添えています。当館をダムのようだと感じた椋本の視点を垣間見ることができます。
8人のアーティストが解き明かす、土地の記憶と風景を是非ご覧ください。
市原湖畔美術館 開館10周年記念展
「湖の秘密-川は湖になった」
会期:2023年7月15日(土)-9月24日(日)
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