TOPIC北川フラム2021.12.28

来る年へ向けて
世界が変わりゆく今こそ、アートが求められている

2022年1月1日(10:15~)NHKEテレ「日曜美術館 新春SP#アートシェア2022」はスタジオを飛び出し、マ・ヤンソン/MADアーキテクツによる《Tunnel of Light》で収録されました。
(写真左から番組司会の小野正嗣さん、女優の水原希子さんと北川フラム)

2年目のコロナ禍のなかで

 去年から続くコロナ禍で、私たちが関わる仕事、特に芸術祭は厳しい状況におかれました。今年は、昨年延期となった3つの芸術祭、そして越後妻有・大地の芸術祭が準備されていましたが、大地の芸術祭は来年に延期となりました。

 「奥能登国際芸術祭」は、昨年秋に予定されていましたが、一年延期。しかし、その一年でまちの家々に代々眠っている資源を掘り起こす「大蔵ざらい」を徹底的にやり、それは「スズ・シアター・ミュージアム」として結晶しました。アート作品が展開された空家、廃校、旧保育園、廃線となった鉄道等は、シアター・ミュージアムの「分館」のようなものだと言えるかもしれません。そして9月4日、石川県の蔓延防止策のもとで、「奥能登国際芸術祭2020+」はシアター・ミュージアムと屋外作品のみ公開という形で開幕。9月末に全国的に緊急事態宣言・蔓延防止策が解除されると、一気に全作品が公開されました。

 「北アルプス国際芸術祭」も、昨年初夏の開催がほぼ一年延期となりましたが、今年は芸術祭に先立って、すでに完成していた作品を一般公開するなどの取り組みを行い、本格的な開幕に向けて慎重に準備を進めながら、10月2日、蔓延防止策の解除のタイミングと同時にスタートすることができました。清冽な北アルプスの自然を背景とした第1回とは異なる、刻々と移り行く紅葉の季節の中での「北アルプス国際芸術祭2020-2021」は、訪れる人に新たな地域の魅力の発見を促しました。

 昨年3月に開幕予定だった「房総里山芸術祭 いちはらアート×ミックス2020+」は、コロナ禍の拡大と軌を一にするように二度の延期を余儀なくされ、開幕のタイミングが見えない状況が続きましたが、10月中旬、急遽開催を決定、11月19日から29日間の公開という短縮した会期で実行されました。ほとんど告知が出来ない中で始まりましたが、「晴れたら市原、行こう」のキャッチフレーズのごとくお天気にも恵まれ、会期後半には大勢の人、特に子ども連れや若い人たちが来られ、鉄道と里山の旅を楽しみました。

 3つの芸術祭は、それぞれが感染対策に工夫を凝らし、いずれも感染者ゼロで閉幕を迎えることができました。しかし、いずれも、これまで力を入れてきた「ツアー」や「食」のプログラムは準備できませんでした。また、一部、地域の人たちが関わった作品もありましたが、ほとんどの作品は外からのサポーターも含む人々との協働のもとで制作することができませんでした。外国のアーティストは現場視察には来日したものの、制作設置はほとんどすべてリモートで行わざるを得ませんでした。パフォーマンスについては、スケジュール調整や集客の面から延期することができず、実施できないものもありました。映像を公開するという形をとったものもあり、厳しい局面が続きました。残念です。

 「大地の芸術祭」については延期となりましたが、2つの拠点施設、キナーレの美術館機能を強化するMonET(越後妻有里山現代美術館)とまつだい「農舞台」のカバコフのアーカイブを中心としたリニューアルは粛々と進め、この夏、同時にオープンさせることができました。「今年の越後妻有」と謳い、恒常的な施設や常設作品を活かした持続的な運営に向けて、大きな一歩を踏み出すことができたのではないでしょうか。

人と人、人と自然、世界をつなぐアート

 こうした地域型芸術祭に、実際に多くの人が足を運んでくださり、関わってくださったことはありがたく、またこれまでとは違う層の人々が評価し始めてくださっていることは、嬉しく思います。コロナ禍によって、移動することや集うことが制限される中、社会全体のアートへの関心、期待が一層強く感じられるようになったと思うのです。地球環境の危機、気候変動に伴う、都市偏重の文明が見直され、田舎の大切さへの認識が高まっていることもあります。そうした時代の転換点にあって、人と人、人と場所、あるいは人と自然をつなぐアートの媒介性、弱々しく、面倒で手がかかるゆえの“赤ちゃんのような”面白さ、そしてアーティストの“夢想する力”が、人々をアートに惹きつけていることがわかってきました。

 今年10月、全世界をオンラインでつないで行った瀬戸内アジアフォーラム2021―Artists’ Breath Liveは、その証左のひとつであるでしょう。「Artists’ Breath」は、昨年6月から今年1月まで、私たちがつながりをもつ約200人のアーティストに、コロナ禍という世界が同時に同じ体験をするという稀有な状況の下、何を考え、何をしているのかを2分間の動画にして投稿してもらい、共有するインスタグラム・プロジェクトでした。
 それから9か月を経て実施した「Artists’ Breath Live」では、世界27か国から31名のアーティストが参加、今どこにいて、何をしているのかをそれぞれ3分間ライブでレポートしてもらい、1000人以上が同時に視聴しました。それに伴って発行されたブックレットには、39か国の異なる国や地域で暮らすアーティスト77人が寄稿。彼らが経験し咀嚼した(あるいは咀嚼しつつある)この1年半が綴られています。彼らのテキストに書かれていることは非常に個人的なことですが、集まったそれらを読み進めていくと、そこには普遍的な人類に対するメッセージがあり、市場との呼応に先鋭化した美術とは異なる、アート本来の何かを見ることが出来るように思います。地球環境問題、金融資本主義のグローバル化がもたらした限界、植民地主義の継続、格差社会と人間の断絶、均質な都市社会など、私たちが今生きているこの社会のなかで、アーティストに何が出来るかが真剣に考えられています。
 私たちは、地球上に生きる78億人の一人として、アーティストの言葉と実感に目を凝らし、耳を傾けたい、そして彼らの構想と作品が今こそ希望である時代はないように思えるのです。
 芸術祭への期待と関心の高まりは、そのひとつの、大きな流れの中にあります。

企業が、世界銀行が、地域型芸術祭に注目する

 企業においても同様の流れが見られます。
 経団連は、昨年11月、「with/post コロナの地方活性化 -東京圏から地方への人の流れの創出に向けて-」を提言し、今年11月、地方創生の実現に向けて「地域協創アクションプログラム」を公表。「新成長戦略」において「地方創生」を最重要分野と捉え、地域ならではの特色を活かしつつ、価値をともに創り出す 「地域協創」を進めるために、芸術や文化を通じた地域の活性化を重要なテーマと考え、私は十日町市長と共に、経団連地域経済活性化委員会で講演する機会を得ました。経団連が地域協創で後押しする企業・大学・自治体・団体などの連携先のひとつに大地の芸術祭が選ばれたのです。

企業の第一線で働く人たちもまた、芸術祭に足を運んでくれていたのです。今年芸術祭を開催した珠洲、大町、市原でも、企業や自治体の人たちが作品を廻る姿をよく目にしました。企業が、メセナや社会的貢献としてだけではなく、自らの本業において、地域に、そしてアートに関わる動きが始まっています。

 その動きは日本や先進国にとどまらず、開発途上国へも拡がっています。
 世界銀行は、持続可能な開発と包摂的成長のために、これまでのハードを中心とした開発支援から文化と創造性の活用を重視し、芸術祭をテコとした地域経済開発を提起、そのパイロットプロジェクトとしてスリランカでの芸術祭実現のためのリサーチを進めていました。自然、観光地、広場、産品、廃校、廃屋などの地域資源を調査し、大地の芸術祭の手法を途上国に適応するためのモデルをつくろうとしていましたが、コロナ禍の影響により、リサーチは中断。しかし今再び、パンデミックからの社会経済的回復をリードするアプローチの1つとして芸術祭はより大きな注目を集め、リサーチが再開されようとしています。

年明けた1月1日には、NHK Eテレの「日曜美術館」新春特番(午前10:15~)が越後妻有の清津峡渓谷「Tunnel of Light/光のトンネル」から放送されます。「再生の2022年」への期待が、そこにはこめられています。

 来年は瀬戸内国際芸術祭、大地の芸術祭がほぼ同時期に開催されます。今年の芸術祭でできなかったことをいかに克服していくかが課題としてあります。

 アートフロントギャラリー全体としても、フェーズが変わろうとしている世界の動きに呼応した活動を展開していきたいと思います。芸術祭にとどまらず、ホテル、オフィスビル、住居などの建設事業や再開発においても、単にアートを提供するだけではない、地域性と国際性を共にもった作品を生み出していきたいと思います。耳目をにぎわすだけではない、それ以上の価値と意味をつくり、地域やコミュニティに関わるための媒介となるアートを求める企業、自治体、機関、さまざまな人々と協働することを心より願い、来る年へのごあいさつとさせていただきます。

アートフロントギャラリー代表

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