TOPICアートコーディネート2020.10.26

「ファーレ立川」から「まち全体が美術館」へーー「メンテナンス」がコミュニティをつくる

コンペの絵が現実に

10月17日(土)、18日(日)の2日間、毎年恒例の「ファーレ立川アートミュージアム・デー」が開催されました。東京・立川市の米軍基地跡地の再開発により「ファーレ立川」が1994年10月13日に誕生して四半世紀。新街区「GREEN SPRINGS」とファーレ立川をつなぐ幅40メートルの歩行者自転車専用道「サンサンロード」には、アートマーケットやキッチンカーが並び、人々がゆったりと行き交うなか、たちかわ創造舎の街頭劇が始まり、そのまわりを子どもたちが走り回っていました。

ファーレ立川は、1977年に全面返還された米軍基地約480ヘクタールの跡地を利用して昭和記念公園や広域防災基地の整備とともに進められた市街地整備の先導的役割を担うプロジェクトとして計画されました。

アートフロントギャラリーは1992年、東京都と立川市により再開発の委託を受けた住宅・都市整備公団(現在のUR都市機構)」が実施した5社指名のアートプロポーザル・コンペで選ばれ、ファーレ立川のアート計画、そしてオープン以後の「アートによるまちづくり」に関わってきました。開発当時、基地の跡地としてそのまま残されていた北と西の再開発が終了した、今年のファーレ立川アートミュージアム・デーで私たちが見た光景は、新しい業務・商業都市に人間と時間の多様で多面的な重層性を街に入れ込みたいとコンペの時に描いた絵が、26年の時を経て現実となったようでした。

4半世紀を経ても、魅力があせない「メンテナンス」の力

 ファーレ立川では、3つのコンセプト「世界を映す街」「機能(ファンクション)をアート(フィクション)に!」「驚きと発見の街」のもと、世界36か国92人のアーティストが、オフィス、ホテル、デパート、映画館など、11棟のビルが建ち並ぶ5.9ヘクタールの敷地内に109点のパブリックアートを展開しています。換気口、排気塔、ベンチ、サイン、街灯、車止めなど、街の機能をアート化し、多様なアーティストの表現により20世紀末の世界を映し出したこのプロジェクトは、1994年度の「日本都市計画学会設計計画賞」を受賞するなど、都市計画として高い評価を受けました。しかし、近年ますます、中国や台湾をはじめ、国内外の視察が絶えないのは、上記のアートのコンセプトの魅力とともに、オープンから現在までの広義での「メンテナンス」に大きく起因していると思われます。

ファーレ立川では、作品を大切に守り、それを活かしたまちづくりが丁寧に展開されてきました。それを具体的に支えてきたのは以下の活動でした。

・ファーレ倶楽部が設立され(1997年)、勉強会を行いながらガイド活動をしてきたこと(ガイドした人数は3万人近くになりました)

・作品の清掃、アーティストによるワークショップを継続的に行ってきたこと(「ファーレ立川ぴかぴかアートプログラム」2002年開始)

・2005年より、10年ごとにアート修復再生事業が実行委員会形式で取り組まれ、2016年には立川市、作品の所有者であるビルのオーナー、ファーレ倶楽部の三者によるアート管理委員会ができ、恒常的なメンテナンスとアートによるまちづくり全体の企画を総合的に考え、資金的に支える組織ができたこと

・立川市が市内の子どもたち全員がファーレ見学ツアーを用意したこと(2008年開始)

特に、メンテナンスについては、アートは所有する者だけで管理するのではなく、それを享受する「みんな」で管理するという発想に転換したことに画期がありました。ファーレ立川は「今、ここ」にアートがあるということから、ガイド、清掃、修復、学習といった活動が派生し、そこからさらに「祭り」の部分を持ち始めたと言えるでしょう。そのひとつの取り組みがアート管理委員会設立とともに始まり、ファーレ立川を美術館に見立てた「アートミュージアム・デー」でした(年2回春秋開催)。

「まち全体が美術館」

こうした活動の背景にあるのは、「まち全体が美術館」という市の施策です。立川市はファーレ立川で世界の第一線のアーティストによる109点のパブリックアートを得たことで、1996年、市の文化振興計画において、いわゆる箱モノの美術館をつくるのではなく、「まち全体が美術館」とすることを位置付け、2004年には「立川市文化芸術のまちづくり条例」を制定。再開発地区や公園、公的施設や新しいビルにアートを設置するよう積極的に奨励し、国立国語研究所(2005年)、立川市役所の新庁舎(2010年)、立川駅周辺、民間のマンションなど、機会あるたびにパブリックアートが制作・設置されていきました。

  • 国立国語研究所前庭に設置された青木野枝《空池ーⅡ》(2005)

街のホール等を使った企画展、国際運動会など、様々な取り組みも蓄積されていきました。ファーレ立川の西側に今年オープンしたGREEN SPRINGSにもたくさんのパブリックアートが設置され、さらにそこにはファーレ立川アート管理委員会で中心的な役割を果たしてきた多摩信用金庫が運営する「たましん美術館」、「絵とことば」がテーマの美術館と親子のあそび場を中心とする「PLAY!」も開設されました。

「アートによるまちづくり」はファーレ立川から始まった

ファーレ立川アートプロジェクトは、アートフロントギャラリーにとって、美術は都市でどんな働きができるかを考える大きな契機となりました。それは、機能のアート化とサインのアート化(「現代アートと社会を結ぶサインコミュニケーション活動の開拓的業績」によりSDA賞特別賞受賞)、広告のアート化(これはJR京都駅の広告のアート化につながります)など、その後の私たちの活動のさまざまな出発点となり、やがて越後妻有の「大地の芸術祭」への針路になっていきました。

アートミュージアム・デーでは、ファーレ立川のブランディングをお願いしている北川一成さんの司会のもと、清水庄平市長、アート管理委員会の佐藤浩二委員長、北川フラムによるトークイベントも開催されました。「With コロナ時代の地域文化・芸術の在り方」について語られる中、そこで確認されたのは、アートの可能性でした。コロナ禍は都市の弱点をさらけ出し、すべての美術館は休館を余儀なくされました。そんな中、いつもと変わらず街に開かれてあり続けたファーレ立川のアートたち。それを守り、生き生きとした状態にしてきたコミュニティの力。アートはコミュニティをつくるきっかけでもありました。

今、基地の街は見事にアートの街に変わり、アートの妖精たちは立川市全体へとその棲みかを拡げています。

ファーレ立川について詳しく知る
北川フラム著「ファーレ立川パブリックアートプロジェクト」(現代企画室) 

ファーレ立川 ウエブサイト 
ファーレ立川の歴史、全作品の写真付き解説やアートマップのダウンロードも可能。

ファーレ倶楽部 ウエブサイト 
1997年の設立以来、ファーレ立川のアートの案内や清掃、イベントを通じてファーレ立川のアートを支えてきたボランティアグループ。

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