TOPIC芸術祭2022.03.22

美術という分身を通して、故人に再会する旅(3)

北川フラム


大地の芸術祭に参加し、故人となられたアーティストたちを紹介するシリーズの第3回です。 
第1回の記事
第2回の記事

ヴィト・アコンチ(2017年4月27日逝去。享年77歳)

アコンチさんは、米軍基地跡地の再開発「ファーレ立川」のパブリックアートプロジェクトで最初に声をかけたアーティストのひとりでした。身体を使ったパフォーマンスから、やがて空間の変容へと向かい、環境自体が作品となり観衆がその中に入り込むことで一つの流動的な風景を作り出す作品を創り出しました。ファーレ立川で彼が最初に出してきたプランはまるでジェットコースターのように空間を自在につなぐ歩道をつくるという素晴らしいものでしたが、結局実現できず、最終的に車止めの機能をもったベンチをつくってもらいました。それは今も人気の作品です。越後妻有では、津南に計画されていた「縄文とあそび」をテーマとした施設全体のアートをお願いましたが、紆余曲折あって実現できませんでした。残念です。渋谷駅につながる渋谷マークシティのエントランスデザインも担当。市原湖畔美術館の屋上にある≪MUSEUM-STAIRS/ROOF OF NEEDLES & PINS(美術館-針とピンの階段 /屋根)≫は、世界でも数少ないアコンチの実現した作品のひとつで、フォトスポットにもなっています。

《MUSEUM-STAIRS/ROOF OF NEEDLES & PINS》Acconci Studio 市原湖畔美術館

田中芳(2013年2月13日逝去。享年53歳)

田中さんは、現代日本画を、時代精神の良質なあらわれとして生き返らせた人でした。草や木、石や土というミニマルな要素を、降る雨や雪、流れる水、吹く風などと組み合わせることで生み出す独特の季節感。その抽象的世界を空間にコンセプチュアルに組み立てることで、日本画に大きな可能性を開きました。ホテルやオフィス、集合住居等、数多くのコミッションワークにおいても果敢な挑戦を続けられました。越後妻有を愛し、里山を歩き、いつか作品を大地の芸術祭でと願っていましたが、53歳で急逝。第6回芸術祭(2015年)において、築240年の日本家屋「ぶなの木学舎」を舞台に彼女の画業25年の軌跡を《けれども、たしかにある光》と題し紹介しました。

田中芳《けれども、たしかにある光》大地の芸術祭2015 photo:Gentaro Ishizuka

礒崎真理子(2013年9月逝去。享年49歳)

礒崎さんはイタリアを拠点に、日本と行き来しながら活躍した陶のアーティストでした。一貫して空間と作品との関係性を追求し、私たちは多くのパブリックアートを共にしました。果物の実や種子など自然界からヒントを得た作品も多くあり、そのユーモラスな形は国内外で人気がありました。大地の芸術祭には第5回(2012年)に参加、松之山は中尾集落の神社の境内に、素焼きの黄色い花のオブジェによるインスタレーション「Flowers: We are here!」を制作。神社の近くにある鏡ヶ池には、大伴家持の娘が身を投じた伝説があり、その故人への弔いも込めたものでした。しかし、その翌年に急逝。彼女の死を惜しみ、第6回、第7回では同作を鏡ヶ池に展示しました。

礒崎真理子《Flowers: We are here!》大地の芸術祭2012 photo:Osamu Nakamura

中川幸夫(2012年3月30日逝去。享年93歳)

中川さんは「前衛いけばな作家」を貫き、流派に属さず、生涯を通じていけばなの既成概念を覆すような表現を切り拓き続けた方です。その中川さんの「球根のために摘み取られるチューリップの花びらを空から降らせたい」という願いは、越後妻有で《天空散華-花狂》として実現されることになりました。2002年5月、信濃川の河川敷、雨の滴りとともに、20万本、100万枚の色とりどりの花びらがヘリコプターの爆音と共に降り注ぎ、あたり一面を染め、ウィーン少年合唱団が歌う「皇帝円舞曲」が流れる中、95歳の大野一雄さんが手の振りだけで舞う。その数分間は、そこに集まった4000人の観衆にとっても忘れられないものでした。中川さんは当時84歳。その翌年、第2回の芸術祭では《夢ひらく妻有》を発表されました。衆彩荘厳の瞬間を寿ぎ、生命の躍動を凝縮したような作品をご一緒できたことを心から感謝しています。

中川幸夫《天空散華-花狂》大地の芸術祭プレイベント2002 photo:Hitoshi Miyata


ロルフ・ユリウス(2012年1月21日逝去。享年71歳)

ユリウスさんは、音と音楽とアートと自然との関係を探求したドイツを代表するサウンドアーティストでした。第1回の芸術祭(2000年)では、川のせせらぎや木の葉のそよぐ音の中に地元で採取した人工の音を忍ばせた音源を植木鉢や高い梢に隠したスピーカーから流し、松代駅から城山の奥まで人々を導く作品《歩く a)地下通路の中 b)木々の声を聴け c)丘の上まで歩く(静寂)》を制作しました。微かに聴こえるスピーカーからの音は、その場の鳥や虫の声、風のざわめきと一体となって静寂を引き立てます。国連難民高等弁務官だった故緒方貞子さんは芸術祭をまわられ、この作品が一番好きだとおっしゃっていました。山の中腹の木立の中に置かれた椅子に座って、目を閉じて耳を澄ましておられた姿を思い出します。ユリウスさんは、第4回(2009年)、そして瀬戸内国際芸術祭(2010年)にも参加しました。作品同様、静かな音楽のように話す方でした。

ロルフ・ユリウス《歩く a)地下通路の中 b)木々の声を聴け c)丘の上まで歩く(静寂)》photo:ANZAÏ

眞板雅文(2009年3月9日逝去。享年64歳)

眞板さんは水・石・鉄・竹などの素材を用い、自然と共生し、環境に共鳴する作品を制作したアーティストです。ベネチア・ビエンナーレや、世界の四大要素と空間について思索した哲学者ガストン・バシュラールの100年祭などに出展、国内外で活躍しました。各地を旅し、さまざまな風土に触れる中で、自然と美術との関係を考えるようになったと言います。パブリックアート作品も多く手掛けられました。第1回芸術祭(2000年)では、松之山の大厳寺高原の1本のブナの傍らに、格子状に溶接した鉄筋でできた門柱のようなオブジェ《悠久のいとなみ―The Eternal》を設置しました。作品は、時とともに植物が絡まり、自然に溶け込み、季節ごとにさまざまな表情を見せています。

眞板雅文《悠久のいとなみ-The Eternal》大地の芸術祭2000 photo:ANZAÏ

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