TOPIC展覧会2022.11.02

試展ー白州模写「アートキャンプ白州」とは何だったのか 開幕

農村を舞台にした芸術祭の原点

10月29日、市原湖畔美術館において<試展―白州模写 「アートキャンプ白州」とは何だったのか>が開幕しました。オープニングシンポジウムには、80人以上が参加。田中泯、名和晃平、巻上公一、北川フラムという顔合わせへの期待と共に、これまで伝説のように語られてきた<白州>への関心の高さを伺うことができました。

本展のゲストキュレーターに迎えられたのは、18歳の夏にボランティアとして参加し、以後10年にわたって白州に関わり続け、現在、世界的に活躍する彫刻家・名和晃平。昨夏、リニューアルした「越後妻有里山現代美術館MonET」に新作《Force》を設置した際の北川フラムによるインタビューで、「自分は白州で、こへび隊のようなボランティアをやっていた。だから大地の芸術祭には共感をもっていた。<白州>は自分にとって原点であり、そこでの<感覚の共有>ともいえる体験が自分が目指す彫刻表現へと繋がっていった」と語ったことが、今回の企画を実現へと大きく後押ししました。

<白州>を彷彿とさせるアート・映像・音によるポリフォ二ックな展示

 本展は、野外美術工作物「風の又三郎」の立ち上げに関わった高山登、剣持和夫、遠藤利克、故・榎倉康二、故・原口典之、5人の作家の作品を骨格として、名和による<白州>のトリビュートとなる作品、名和と同世代の藤崎了一、藤元明の特別参加作品を展開、会場の随所に、1988-1989年に白州に滞在し撮影したニューヨーク在住の映像作家、チャーリー・スタイナーが本展のために編集した映像が大きく映し出されます。白州の田園風景、アーティストたちの泥だらけの制作、深夜まで続く会議、祭の準備、ボランティアたちの労働、ミルフォード・グレーブス、喜納昌吉、田中泯らが歌い踊り盛り上がる酒宴、神社、森、鶏小屋、田んぼや畦道でのさまざまなパフォーマンス、それを見守り、興じる村民、子供たち。アート、映像、音がポリフォニックに響き合う名和のキュレーションにより、幻の<白州>が立ち現れ、祭の情景、人々の協働を彷彿とさせます。

名和晃平《Orbit-M (Tornscape)》,2022 Photo: Yuichiro Tamura
  • 手前:原口典之《オイルプール》 奥:剣持和夫の展示 剣持和夫は白州で描いた大量のドローイングと共に膨大な写真のコラージュによる新作、本展に向けて制作中に倒れ病床で描いたドローイング、そして退院後制作した野外インスタレーションを展示。原口も<白州>の最後まで作品を制作し続けた。本展では白州では実現できなかった《オイルプール》を設置。白州では自然環境への影響を考慮して廃油の代わりに水を張った。Photo: Yuichiro Tamura 

「今、なぜ<白州>か」語り合ったオープニングシンポジウム

左から巻上公一、田中泯、名和晃平、北川フラム

 オープニングシンポジウムで、田中泯は展示を観て「ものすごい量のものが今でも押し寄せてきて、全然、整理がつきません。その整理をすることをしたいとも思わない、それを言葉で上手く言う気もないんです。ひとつひとつが、かつてあったということでは済まされないと、とても驚いています。だからこそ、僕自身は今新しい感覚に襲われております。」と述べ、名和晃平は「いまだに白州のことを思い出します。今は、建築や舞台美術にも関わっていますが、そのすべてに白州が影響しています。キュレーターのお話をいただいて、あれだけの先輩方を前に、最初は怖気ついていました。でも出展される作家に会い、剣持さんが新作を作られると聞いた時、僕らも元気づけられました。この夏に泯さんが美術館を見に来てくれた時、白州をやっていた当時の作家だけではなく、もっと若い世代の作家もいてもいいんじゃないかと言っていただき、白州が今にも続いているんだということを表現すればいいんだと気持ちが切り替わりました。会場の中でいろんな衝突が起こって、白州のあの混とんとした感じがこの空間に出てきたのではないかと思います」と今回のキュレーションについて語った。

 巻上公一は「白州はとんでもないところですね。今も続いているということで、思い出話をしてはいけないとは思うのですが、展覧会を見ると、こんなにやっていたんだと圧倒されました。泯さんも全てを見ていない、見切れないほどのパフォーマンスをやっていました。多分、勝手にやっていた人たちもいたと思います。僕は1993年ぐらいから参加しました。その前にセシル・テイラーが、チューニングが狂ったピアノを弾いているぞ、という話を聞いて、面白いフェスをやっているなと思っていましたが、「カンパニー」というデレク・ベイリーが考えた即興演奏のスタイルでやるのに、参加するということになりました。元々ロックバンドをやっていて、この辺りから、即興と関わるということができるようになりました。翌年に「ボイスサーカス」というものをやりました。竹田賢一さんが声だけでやりたいということで声をかけてくださったのですが、打ち合わせに行ったら竹田さんは来なくて、そこから僕がリーダーになりました。結局、一回も竹田さんは来ませんでした。白州ってすげぇなと。厳しさと緩さが共存しているところがすごいんです。世界中からいろんな人が集まっていて、その中にロシア連邦のトゥヴァ共和国からアンサンブルをやる人たちが来ていた。その人たちのホーメイが本当に素晴らしくて、本当にびっくりして、栗林の中でワークショップをやってもらいました。その時に参加した中で20人くらいの人たちが「来年トゥヴァに行きます。」と言ったのですが、行ったのは僕一人だけだったんです。でもそのおかげで、今でもトゥヴァの人たちとの交流が続いています。そのあとも、白州に参加していました。口琴をつくるワークショップなど、様々なことをやっていました」と、今の自身につながる様々なチャンスを白州からもらったと語りました。また北川フラムからは、自身がこれまで取り組んできた地域芸術祭の経験の中で、白州の営みからにいかに学びうるかが問いかけられました。四者のやり取りの中で、継続を目的化しない、マニュアルを固定化させない、権威やヒエラルキーがない、演じる者と見る者が限りなく一体となった白州の祭りのあり様が明らかにされていきました。

 会場には<白州>を様々な形で体験した参加者も多く、アーティストの坂口寛敏は「美術家はものが残るけど、踊る人はからだがなくなったらどうなるか」と田中泯に投げかけた榎倉康二の言葉を紹介し、音楽家の大熊ワタルは「白州では、びっくりするくらい透明な空気と共に、自分もどんどん透明になっていくみたいな不思議な感覚があった。白州は、いつも夏が楽しい、学校の代わりに一緒に学ぶような得難い場所だった。例えばご飯を食べに行く手作りの食堂があって、とれたての野菜があって、手作りのイスやテーブルがあって、全部が等価だった。音楽は別に特別な存在ではなく、いろんな人が集まって、それらが響きあっているような、ある種夢の革命的な実験の場所だった。じゃあ自分はここから学んで、どう自分のことをやろうかな、そんなアイデアをいっぱいもらった、最高の場所だった」と語りました。舞踊評論家の石井達朗は「ヒエラルキーが限りなく薄まった中で、呼吸している人たちが平等に生きている、そういう空間だった。パソコンとケータイの現代という時代に、どうしたら、ああいう空間が可能なのか」と問いかけ、学生時代、ボランティアとして参加した建築家の永山祐子は、中上健次原作の「千年の愉楽」の舞台の裏方をやるなかで、「泯さんと観世栄和さんの背中を見て、震えるぐらい感動して、舞台はやっぱり人が作るんだ、ということを目の当たりにした経験が、再び建築に向き合おうとする自分の背中を押してくれた」と語りました。

20年におよぶ<白州>の軌跡を初めて書籍化

 20年にわたって白州を舞台に展開された取り組み。しかしこれまでそれについて記されることはあまりありませんでした。本展では、記録写真や資料と共に、田中泯、名和晃平、象設計集団創設者・樋口裕康、「風の又三郎」を牽引した高山登、田中泯の盟友・松岡正剛、北川フラムによるインタビューやエッセイをはじめ、<白州>に参加したアーティスト、建築家、音楽家、パフォーマー、ボランティア、体験疎開に参加した“子供たち”の証言を収録、1000におよぶイベントデータとともに書籍化しました。同書は、<白州>が戦後日本の芸術文化に与えた影響、現代における意味を考えていくためのひとつの出発点となるでしょう。

 コロナ禍にあらわれる自然の叛乱、地球環境の危機、都市や資本主義の限界に直面する今、<白州>の経験は、私たちに多くの示唆を与えてくれるはずです。

■書籍『試展―白州模写 「アートキャンプ白州」とは何だったのか』

・B5版、280ページ、カラー+モノクロ
・発行:市原湖畔美術館
・発売:現代企画室
・定価:3500円+税(3850円)

[掲載内容]
・<白州>体験者 33 人による寄稿・インタビュー 田中泯、名和晃平、高山登、樋口裕康、松岡正剛、大熊ワタル、大友良英、 巻上公一、永山祐子、石井達朗、北川フラム他
・野外美術工作物《風の又三郎》全作品 榎倉康二、遠藤利克、剣持和夫、高山登、 原口典之他 73 人
・1988-2009 年に開催された主要イベントおよび 1000 を超えるイベントデー タ
・年譜

■関連イベント

11月5日(土)には人工湖・高滝湖を背景とした田中泯による場踊り(チケット完売)、6日(日)には、2022年に京都で結成されたパフォーマンスグループnakice(奥野美和・藤代洋平)とシマダタダシによるワークショップが美術館内外で行われます。

https://lsm-ichihara.jp/event/workshop_nakice/

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